オフラインムービーを見て自分たちの実力を確信した前回チェック。
そして、このまま行けばTVCMの最初のオンエアは自分たちだと告げられた。
自分たちの作品がいち早く放送されることに誇らしさを感じ、忙しい中にも、少しの余裕と安心感を抱いていた。
第7回チェック。
納品に向かいラストスパートをかけなければいけない時期となってきた。
この日初めて、ミュージック学科からなるサウンドチームが岩本監督のチェックを受ける。
チェックの厳しさは前々から聞いていたので、緊張の色を隠せない。
CG映像学科の映像チームもこの日、初めてサウンドを聴いた。
「うぉ、すごい!」
映像チームから歓声があがる。
爆発音などのサウンドエフェクトが自分たちの想像を超えていて、映像に迫力とリアリティが増していた。
「カッコいいね、音自体にもパワーがあって」
岩本監督の第一声で、緊張していたサウンドチームに安心の色が広がる。
基本的な方向は評価を得たが、岩本監督のチェックは効果音に関しても余念がない。
サウンドチームもまた、プロの細かい指示を受ける。
岩本監督の強いこだわりを目の当たりにして困惑もしたが、時間の限り精度を上げていくことを固く決意した。
続いて映像チームのチェックが始まる。
おおむね評価は上々だった。
最終的な詰めに向かって、細かい指示が入る。
そんな中、岩本監督から演出について提案があった。
「剣を構えるシーンは、同時に銃弾をはじき返す動きにした方が良いのでは?」
メンバーは顔を見合わせて戸惑いの表情を見せた。
言われた修正を行えば、最終的なコンポジット作業をしている中で、新たなエフェクトをつくり、更に動きを検証しなければならない。
納期から逆算すれば、ギリギリ間に合うか間に合わないかのタイミングだ。
就職作品プレゼンテーションも終えて就職活動の準備は加速する一方、通常の授業や課題もある。
全体的な評価は悪くないのだから、誰もがこのまま進めたいという気持ちだった。
「スケジュール的にちょっと…。」「できれば、今の状態のままで…。」
メンバーのとまどいが、“回避したい”という言葉として出てくる。
監督も納期のことを気にかけてか、無理強いはしなかった。
すべてのチェックを終え、監督たちはプロジェクトルームを後にし、別室で打ち合わせをしていた。
そこに「失礼します。」と、メンバーのうち数人が入ってくる。
何事かと不審に思う監督たちを前に口を開く。
「先程の、剣で銃弾をはじき返すシーン、つくってみたいです。」
自分たちの作品は、このままいけばCMとして世の中に発信することができる。
正直、自分たちの作品は合格点なんだという慢心があった。
でも、この何ヵ月もの間、学んできたのはそんな甘いことだったのか?
ただのCMではダメだ、良いCMじゃないと意味がない、ということを誰からともなく口にしはじめ、監督に直訴することにした。
剣を構えるシーンについて具体的なイメージを伝える岩本監督。
もちろんそこには効果音の制作も発生するが、サウンドチームも映像チームの情熱に負けてはいられないと士気は高まっていた。
その後、映像チームとサウンドチームによって話し合いが行われ、作業に移る。
最後の最後までもがき続けることを決心し、プロジェクトメンバー全員が揃った今、大阪は1つとなっていった。
名古屋チーム、大阪チームのオフラインムービーを見て、自分たちは全然ダメだと感じた前回チェック。
この現状に一番落ち込んでいたのは、東京チームのリーダー 荘埜祐介だ。
責任感が人一倍強い彼は、みんなのために自分が何とかしなきゃと必死だった。
それゆえ、今までメンバーに言いづらいことがあると自ら作業を行ったりもしていた。
強いあせりと、自分のせいだという強迫観念で、1人プロジェクトルームを離れて涙することもあった。
どんなに一生懸命やっても結果がついてこない、なぜ、どうして…。
「みんなを、もっと頼っていいんじゃないか。」
メンバーを近くで見てきた教官が、1人悩む荘埜に語りかける。
頑張るのは当たり前だ、それと同時にリーダーとして仲間に遠慮せず、任せるということが足りていなかったことに気づく。
スーッと、肩が軽くなった気がした。
他校のオフラインムービーを見てから、重たい空気の中で作業するメンバーたち。
「この背景を細かく詰める作業をお願い」「ナックルガードのテクスチャ、もっと汚してくれないかな」
暗い雰囲気のプロジェクトルームで、1人だけ自信にあふれ、吹っ切れたように指示を出す荘埜がいた。
第7回チェック、岩本監督から順調にブラッシュアップできていると評価を受けた。
コンポジット作業も進み、今までつくってきたものが組み立てられ、評価される喜びを誰もが感じていた。
「他チームにはない、哀愁感のある力強い演出をもっと出していこう。」
テクスチャ、ライティング、アニメーションにおいて、よりドラマチックさを追求していくことを岩本監督から指示される。
3チーム中で唯一、背景全体を夕景で進めている名古屋チーム。
話し合いを重ねて独自の魅力を見つけ出し、その路線で順調に進んでいることを誇らしく思えた。
その誇りが、作業をさらに加速させる燃料となっていく。
「音に重みもあって、名古屋チームらしさが出ているね。」
サウンドに関してのチェックも、評価は良かった。
モデルの武骨なイメージを活かした、重厚感のある効果音。
サウンドチームと映像チームは、よく話し合いの場を持ってお互いに作業を進めていた。
そのおかげで初めてのチェックにも関わらず、好評価を得られた。
「映像の方がブラッシュアップされるので、これからも連携を取って音をつくるように。」
サウンドチームは、どんな映像がきても楽勝だと言わんばかりに、メンバー全員が自信に満ちた返事をした。