第1回チェックの高評価とは裏腹に、第2回チェックで待ちうけていたのは岩本監督からの厳しい評価だった。
自信がある箇所に限って、指摘が入る。
悔しいというより、突然目の前が暗闇に覆われた気分だった。
プロに見えているポイントが、自分達には見えていない。
「ここまでこだわるのがプロなんだ…」
わかっていたことだけれど、指摘される毎にプロの仕事の厳しさを認識した。
ショックを受けたが、それでも、進まなければいけない。
次の第3回チェックはすぐにやって来る。やるしかない。
「ここから、また巻き返せばいい。
一度指摘があった程度で止まっていられない」
オリエンテーションの時に託された絵コンテなどを含む説明資料を再度読み込んで、今度は忠実に再現できるように修正を図った。
よりリアルな背景を心がけるために、実際の高層ビルなどを見に行ったりもした。
同時に主人公機などのモデリングを組み立てながら、プリビジュアライゼーション(各シーンを簡単に映像化したもの)もどんどん進めていく。
そして、第3回チェックの日はやってきた。
第3回チェックは、第2回チェック時にも増して、岩本監督からの評価は厳しいものだった。
近未来の世界観を出すために建物の造形にこだわったが、実際の高層ビルを参考にしすぎて、現実的な建物のデザインから抜け出せなかったことが要因だった。
さらにプリビジュアライゼーションについては絵コンテ通りに再現し過ぎていて、つまらないものになっていた。
「機体の動きにメリハリを」「カメラワークはもっとダイナミックに」「見せたいシーンなら細やかに時間を使って」
「東京チームの個性が見えるようにしないと、意味がない」
僕たちは全力を尽くしていた、100%を出していた。
指摘された点や、与えられた情報でつくり出すことに注力していた。
…でも、追いつけなかった。
100%力を出すことが間違っていたのではない。
その力を出す方向が、ズレていたのだ。
メンバーが自分達の甘さを痛感していた中、岩本監督から印象的な言葉があった。
「本当に確信がある“格好いい”をつくってる?」
そうだ、僕たちはプロのクリエイターを目指しているのに、言われたことだけをつくっていて、自分たちの信じる“格好いい”をつくっていなかった。
クリエイターを目指す者として恥ずかしさが込み上げてくる。
多くの改善点が浮かび上がった東京チーム。 前回に続き課題が山積みとなる結果となった。
しかも、東京チームらしさという「個性」を背負って乗り越えなければゴールが見えてこない。
「個性」「格好良さ」。
「創造性」というプレッシャー。
岩本監督による第3回チェックが終わると同時に、東京チームは迷路から抜け出す方法を模索し始めた。
納得いくまで、互いのこだわりを主張しあう。
ひとり1人の意見が、ぶつかり合いながら、進むべき道をつくっていく。
大阪チームは通常のミーティング以外にも、さらに積極的にコミュニケーションをとるよう心がけていた。
「ぶつかることを怖がらずに、とにかく話し合うこと」
大阪チームの山下隆が岩本監督からもらった言葉を、皆で実行している。
そして迎えた12月24日、岩本監督による第3回チェック。
「全体的な方向感はいいんじゃないでしょうか」
1つ、進め方の正解が見えた気がした。
勇気ある1人の相談から掴み取った正解を、みんなで分かち合える嬉しさがたまらなかった。
これからは、どんどんぶつかり合いながら信じた方向へ進んでいこう。
クリスマスムード一色で浮き足立つ街並みとは裏腹に、HAL大阪のプロジェクトルームは熱い決意で満たされていった。
眉間のしわは濃くなり、額に汗がにじむ。
あせっていた。
変わらなければいけないと決意をした前回。
だが、いまだ全体の方向性が見いだせていなかった。
モデルのプロポーション、間接構造、ギミック、中でも背景などの世界観は迷走を極め、メンバー全員が完成イメージを持てずに時間は過ぎていった。
「機体の動作が単調」「カメラワークは流れるように」「世界観はどういう設定なのか」
第3回チェックの際、迷走していることを岩本監督に見抜かれる。
特にアニメーションに関しては1割にも達していないと指摘を受け、打ちのめされたような思いになった。
「なぜこの表現か。理由を考えるプロセスを、大切にしよう」
この日、岩本監督が残してくれたこの言葉が、この後、彼らのエンジンとなる。